副甲状腺とカルシウム
入院中は毎日血液検査があった。
薬がちゃんと効いているのか調整が必要だからだ。
まず二つ戻してもらった副甲状腺。
副甲状腺は、甲状腺の裏側にある米粒半分くらいの大きさの臓器で、「副」甲状腺と言っても甲状腺とはまったく別の臓器だ。
(下手な絵ですがイメージしやすいように書いてみました。)
副甲状腺ホルモンを作っており、通常は甲状腺の左右の裏面の上下に2対、合計4個あり、人間の目に見える臓器で最小といわれているそうだ。
副甲状腺ホルモンは、血中のカルシウム濃度が低下すると分泌が高まる。
骨に含まれているカルシウムを血中に取り出し、腎臓に作用してリンの再吸収を抑制し、カルシウムの再吸収を促して尿中への排泄を減らす。
また、腎臓におけるビタミンDの活性化を促進して、活性型ビタミンDの作用によって腸管からのカルシウムの吸収を増加させる。
これらの作用により、血漿内のカルシウム濃度が増加し、正常範囲内に維持されることになる。
副甲状腺を戻せたからといって、すぐに機能してくれるものではないらしく、元に戻るまでは薬でカルシウムを補うことになるそうだ。
副甲状腺の機能が戻るまでの間、カルシウムの粉薬とアルファロールというビタミンDの液体の薬を処方された。
結実は年長さんになるよりも前に、錠剤の薬が飲めるようになっていたと思う。
逆に粉薬は苦手で、いつも飲ませるのに苦労していた。
だからこの時も、全て錠剤で処方してほしかったのだが、まだ体が小さい結実の場合、飲んでいる量が少ないので錠剤がないらしく、アルファロールとカルシウム両方の薬をアイスやジュースに溶かして飲んだ。
アルファロールは油のようで溶けにくく、どれだけ混ぜても分離して浮いていた。
これらは副甲状腺の機能が戻れば止められる薬だ。
甲状腺ホルモン「チラーヂン」
次に甲状腺ホルモンの薬、チラーヂンS。
これが結実が一生飲まなればならない薬になる。
チラーヂンSは、本来の甲状腺から分泌されるT4(=サイロキシン)という甲状腺ホルモンそのもので、人体にとって必要不可欠だ。
甲状腺が正しく機能していれば本来体内にあるホルモンなので、飲む量が適量ならば副作用はない。
多く摂取すると動悸や頻脈、体重減少や心臓に負担がかかるようだ。
逆に少ないと…
TSH(甲状腺刺激ホルモン)が分泌され、もっと甲状腺ホルモンを作るように甲状腺の細胞を活性化させる。
甲状腺を全て摘出している結実の場合、転移先の肺にあるガン細胞は、甲状腺と同じ性質を持っているので、そのガン細胞を刺激して増やすことになってしまい危険だ。
なので、
十分な量を服用しつつ、過剰にはならないギリギリの量を決めたいと言われていた。
主治医の先生が、私達にわかりやすく説明してくれた。
・甲状腺ホルモンは体内にストックがあり、すぐには無くならない。
・玄米のような状態でストックされていて、必要な分を精米しているようなイメージ。
・大体3週間分ぐらいストックしていると言われており、飲み忘れてもすぐに問題は起きない。
術後9日で結実は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が、上限値5.000(μU/ml)であるのに対して39.000と高値を示し、甲状腺ホルモン(FT4)が下限値0.90(ng/dl)のところ、0.86と下回っていた。
術後すぐから薬を開始しているので少しずつ甲状腺ホルモンの数値も上がってくるだろうとのこと。
甲状腺ホルモン(FT4)の数値が上がれば、甲状腺刺激ホルモン(TSH)の数値は下がる。
甲状腺ホルモン薬(チラーヂンS)を少し多めに飲んで、体に十分足りている状態にし、甲状腺刺激ホルモン(TSH)がほとんど出ないようにすると、ガン細胞が増えるのを抑えられるという。
これをTSH抑制療法というそうだ。
結実は術後からチラーヂンSを、1日1回朝の空腹時に100μg飲み始めた。
甲状腺ホルモン薬「チラーヂン」で食欲とテンションが上がる!?
耳鼻科の先生以外に、担当してもらった小児科の先生に聞いた話では、
チラーヂンは多すぎると、心臓に負担がかかったりするから、そんなにたくさん飲ませられない。
かといって、
少なくてもダメで、『少しだけ』多いぐらいに維持するのだが、
その結果、暑がりになったり、食欲が出たり、少しいつもよりテンションが高くなったりするかもしれません。
と言われていたのだが…
入院で21kgあった体重が、退院時には19kgになっていて、このチラーヂンの副作用?の症状には助けられた。
傷が癒えたおかげもあるが、少食の結実がたくさん食べるようになったのだ。
確かにテンションも少しだけ高く、すぐふざけてケラケラ笑うので、これも心配続きだった私達夫婦を元気付けた。
元々暑がりだが、まだ寒い時期でもよく汗をかいた。
退院後1ヶ月程でチラーヂンの量が減り、今はこの時のような状態では無くなったが…
食欲は幼稚園の頃よりあるので、もしかしたら結実は元から甲状腺機能が低かったのかもしれない…
と今になって思う。
甲状腺全摘出後の後遺症?
他には手術の影響で猫背になりやすいらしく、姿勢を意識するようにと教えてもらった。
術後しばらくは気になることもあったが、数ヶ月経った頃には感じなくなった。
腕の筋力が手術前の状態に戻るよう、肘が下がらないように、体の横で地面と水平に力こぶを作るような運動も教えてもらった。
結実にそのポーズをとってもらうと、確かに肘が下がったり、内側に入ったりする。
体の横でキープするとプルプルしているのがわかった。
今後、手術をしていない時と比べて、運動のパフォーマンスは少し下がるかな、と言われた。
元々運動神経がそこまで良いほうではないから、ある意味良かったのかな…
そんなに影響がなければいいけど。
子供の甲状腺全摘出後の傷口の処置
帰宅後、傷口には3Mサージカルテープを張っているのだが、毎日張り替える必要はないらしく、剥がれてきたら張り替えてと言われた。
まともに傷を見ていないし、恐ろしくてとてもじゃないけど自分では換えられず、術後しばらくは通院の時に換えてもらった。
術後1ヶ月程経って、やっと自分でテープを換えた時、傷口を抑えながらゆっくり剥がすように言われたのだが、初めてしっかり結実の首に触れると、触れた傷口はとても硬く、怖くなってしまった。
結実に不安を悟られないように、何でもない表情で貼り換えるが、これが本当に普通の皮膚、首の感触に戻るのか不安で仕方なかった。
子供だからなのか…
3ヶ月を越えると、そんなに気にならなくなったように思う。
声は本当に少しずつではあるけれど、出るようになっていった。
本来の声にはまだまだ程遠いけど、最初は喋りたがらなかったのが、スマホで動画を撮っても早口言葉を得意気に言うようになっていた。
手術から10日後に退院して、まずは1週間後に外来受診。
順調そうなら、その後は2週間毎ぐらいになる予定だ。
術後のヨード治療について
術後3ヶ月程で、経過が良ければ、次の放射線カプセルを飲む治療のために、大学病院へ紹介しますと言われた。
I-131内用療法と言われるその治療は、結実が手術をしてもらったこの病院ではできないものだった。
全国でもできる施設が限られていて、近隣ではその大学病院だけだ。
I-131内用療法
放射性ヨード内用療法とは、甲状腺癌がヨードを取り込む性質を有することがあるのを利用し、I-131と呼ばれる放射線を放出するヨードのカプセルを内服することで施行する放射線治療です。
体内に入った放射性ヨードは、自然に甲状腺癌の病巣に吸い寄せられます。ヨードから放出される放射線の到達距離は非常に短い(0.5mm程度)ため、癌病巣のみに集中して放射線を照射することができます。このため、非常に副作用の少ない放射線治療を行うことができます。
(引用元)東京大学医学部附属病院 放射線科
この時は、それを終わらせて治療終了となる予定だったのだが、
そんなトントン拍子には進まないのだった…